年金制度をより持続可能なものにするために

年金制度の見直し
更新 2016/12/16

 

国会で審議されていた「年金制度改革関連法」は、平成28年12月14日に可決・成立しました。与党は「将来世代の年金確保のための法案」であるとしてその必要性を強調し、反対に野党は「年金カット法案」と呼んで批判してきました。

「年金制度改革関連法」と呼ばれているこの法律、正式には「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」という長い名前が付いています。年金制度を将来に向かって長続きさせるためのものであるということがここから見て取れます。

具体的な中身としては、以下の5つが盛り込まれています。

  1. 短時間労働者への被用者保険の適用拡大の促進
  2. 国民年金第1号被保険者の産前産後期間の保険料の免除
  3. 「賃金・物価スライド」徹底など、年金給付額の改定ルールを見直しし、将来世代の給付水準を確保 (後述
  4. 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の組織等の見直し
  5. 日本年金機構に不要財産が生じた際、国庫納付する手続きを規定

この機会に現行年金制度の問題点や年金見直しの概要について、以下見ていきます。

 老後のマネープランの中心は公的年金です。この公的年金のベースである国民年金の未加入・未納が5割*を超えております。平成16年に年金法は難産のすえ改正になりましたが、平成19年には旧社会保険庁の不祥事や記録漏れ問題が発生し、年金制度に対する不信が高まりました。その後の少子高齢化の進展により現役世代頼りの年金制度はさらに逼迫してきております。このような状況で年金制度はどこまで持つかと心配になります。しかし、年金制度は崩壊させてはなりません。何といっても国の年金は終身で、老後の柱です。持続可能になるよう見直しが急務です。

 *保険料を免除されている失業者や猶予されている学生などを勘案した平成26年度の国民年金の実質納付率は41%

民主党の菅内閣の不信任案が提出された平成23年6月2日に、政府は社会保障と税制の一体改革(原案)を発表しました。2015年までに消費税を5%上げ10%とし、年金・医療や子育て支援を充実させるというものです。この原案はいくつか手直しされ平成24年2月17日に「社会保障・税一体改革大綱」としてまとまりました。(野田内閣 閣議決定 平成24年2月17日) 

自民・公明も財源問題から消費税増税は必要として、改革案に修正を加えて合意しました。(3党合意 平成24年6月13日)

そして平成24年8月10日に社会保障・税行った改革法案は参議院で可決・成立しjました。年金関連ではパート加入基準が緩和されるなどいくつか改善がありましたが、消費税が5%から10%に増税され社会保障の財源が補強されたのが大きな目玉です。ただし、10%程度の消費税では増えつつける年金をはじめとする社会保障をまかなうには十分ではないとする指摘もあります。また、8%に上がった消費税も、10%への再引き上げは、景気に対する配慮から平成29年(2017年)まで延期されました。そして今回の年金制度改革です。民進党は年金財政はひっ迫しているのに、年金カット法案として反対しました。

今や年金は国民にとって切実な問題ですのでオープンな議論を期待します。 年金は将来にわたる問題です。いたずらに政争の具にしないで、与党も野党も、スウェーデンがやったように超党派で建設的に議論してもらいたいです。

現行年金制度の概況

2

現行年金制度の問題点

3

年金制度見直し状況

4

今後の課題

1

現行年金制度の概況  (厚労省資料から)

@

公的年金制度の仕組み

 

A

公的年金制度とライフコース

B
C
 

2

我が国年金制度の問題点

 

@年金財政の逼迫 

我が国の公的年金制度(厚生年金及び国民年金)は、現役世代の保険料負担で高齢者世代を 支えるという世代間扶養の考え方を基本として運営されている。このため、年金給付を行うた めに必要な資金をあらかじめすべて積み立てておくという考え方は採られていない。

・少子化によって支え手が減少していること. 現役依存は限界に近づいている。
65歳以上の人口割合26%になり世界最高、15歳未満13%世界最低、労働者人口は2005年より5%弱減少。 (2010年の国勢調査速報)
これまでは3人の現役が1人の高齢者を支える「騎馬戦」型だったが、2050年には1人が1人を支える「肩車」型に
・国民年金ばかりでなく厚生年金も保険料納付率が低下しているこ(会社250万社のうち70万社が未納または厚生年金に入っていない)
・保険料が払えないパート、派遣などの非正規雇用者が増大している。
・一方高齢化により終身年金である年金給付額は増加を続けている。

平成27年予算ベースでは下図のとおり平成27年保険料収入は35兆円に対し年金給付は54兆円、不足額は年金積立金の取り崩しと国等の負担金で賄っている。年金積立金はどんどん減ってきており、いつまでもつか心配されます。予算の3分の1は借金(国債)で賄っている状況で国庫にも限度があります。打ち出の小づちではありません。」

 
公的年金制度の規模と財政
 

なお、年金財政の悪化を見据えて、100年もつよう長期的な対策(下図)がとられました。しかし予想を超える少子化、経済低成長などが年金財政を取り巻く環境は厳しく、このままでは年金制度自体破たんしかねませんさらに安定的な枠組みを構築することが急務です。

現行の年金制度における長期的な枠組み

ご参考 年金積立金の管理について 年金積立金管理運用独立行政法人ホームページ

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A年金制度への信頼性回復努力中であるが、過去に年金制度担い手の旧社会保険庁に問題*があったこともあり、まだ十分とはいい難い。 旧社会保険庁後継の日本年金機構は平成27年5月に125万件の基礎年金番号を流出させるなどシステム関係セキュリティに問題が残っている。

・特に若者には年金不信感**を持つ人が多い。 20〜24歳の国民年金保険料の実質納付率は27%、25〜29歳同40% 2015年度の国民年金納付率は全体で63.4% 過去最低であった2011年度の58.6%から4年連続でふえてきたが依然として低水準

生活保護の受給は160万世帯を超え、半数を高齢者世帯が占めている。年金だけで暮らせない高齢者がこれから急増し。現在でも年4兆円近くにのぼる生活保護費が、さらに膨れ上がるかもしれない。 有効な年金未納対策が望まれる。(近年、差し押さえに力を入れている)

*旧社会保険庁の問題点
・ガバナンスの欠如、隠蔽体質、モラルが低かった
・地方事務官、ノンキャリ、キャリアの三層構造で人事複雑、それに強すぎる労働組合が存在する(働かない権利の獲得)
・社会保険庁は解体、日本年金機構に生まれ変わることとなったが、まだ積み残しの処理が残っており、後遺症がある。システム関係のセキュリティ対策が遅れている(2015年5月 120万件の基礎年金番号流出)

** 世代間不公平の拡大
・少子・高齢化の進展は、運営方式の基本が賦課方式である以上、現役世代・未来世代から引退世代への所得移転が拡大
・この所得移転が大きくなればなるほど、現役世代・未来世代の年金制度に対する信頼は低下し、保険料未納者が増えるなど制度の存在自体が危うくなる。

B低年金・無年金者の存在

老齢基礎年金のみの受給者のうち月額3〜4万円しかもらえていないものが一番多い。(H18年度末)
無年金者→今後納付できる70歳までの期間を納付しても25年に満たない無年金見込者はH18年度末で最大118万人と推計される。(社保庁調べ)
 ⇒年金の受給資格期間を現在の25年から10年に短縮することになる。(平成27年10月1日施行)

C現状に合わない制度

・モデル世帯:一定年代になったら結婚し、専業主婦として生涯同じ夫と添い遂げることを前提。しかもその夫は定年まで雇用が保障されることを想定
・多様な働き方が増えている:パート、派遣、起業など非正規雇用の増加 ⇒短時間労働者(パートなど)に対する厚生年金の適用拡大(平成28年10月施行)
・多様なライフコース:離婚、再婚、生涯未婚者の増加。フリーター、転職の増加

Dその他年金制度に対する不満

・専業主婦の第三号被保険者が保険料免除されている(独身キャリアウーマン主張)
・受給資格期間が諸外国に比べて長い 日本25年、米国10年、ドイツ5年 ⇒日本も10年に
・官民格差厚生年金・共済年金一元化することになった。

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年金制度見直し経緯

 

◎年金制度改正経緯(社会保障・税一体改革関連)

◎短時間労働者への適用拡大について

現在は、一般的に週30時間以上働く方が厚生年金保険・健康保険(社会保険)の加入の対象。それが、平成28年10月からは従業員501人以上の企業で、週20時間以上働く方などにも対象が広がり、より多くの方が、これまでより厚い保障を受けることができることになりました。

 

◎年金額改定ルール見直し(マクロ経済スライドの強化)について 平成28年12月14日成立

 

平成16年の年金改革で給付額抑制の見地から少子高齢化に応じ年金額の伸びを自動的に抑える仕組み「マクロ経済スライド制」を導入しました。 ただし、物価や賃金がが下がったときは発動しないとしました。しかしその後デフレ状態が続きマクロ経済スライドによる給付抑制は機能しませんでした。それが今回より、強化されます。

第1の改正ポイントはマクロ経済スライドについてです。これまでマクロ経済スライドが働かない、あるいは完全に実施できない状況では本来下がるはずだった年金額が実際には下がらず高止まりするという現象が起こっていました。

これを、下げられなかった分を累積してとっておき、年金額が大きく伸びる好景気の局面においては以前の未調整分の残りを持ってきて消化しようというのです。厚生労働省ではこれを「キャリーオーバー」と呼んでいます。ここで、年金額の抑制は、あくまで前年よりも額面で下がらないということが前提です。あくまで年金が伸びる、最悪でも据え置きになるように調整されるということになっています。

第2の改正ポイントは賃金・物価スライドの見直しです。これまでのルールでは、物価は上がり賃金が下がった場合は年金額は据え置き、物価も賃金も下がったが賃金の下げ幅がより大きい場合は物価に基づき改定となっていました。この2つの場合において、賃金の変動を元に年金額を変動させるように変更します。

年金の支え手である現役世代の負担能力は賃金によって決まります。年金をもらう方ではなく払う方の実情に合わせて年金額を変えていこうという考え方です年金受給者にとっては物価が上がっても場合によっては年金が減額されるという厳しい状況にもなるわけです。

(第1の改正ポイントは平成30年4月から、第2の改正ポイントは平成33年4月からの導入予定)

社会全体の構造変化を年金給付に反映させることは高齢者に不評ですが、次世代の負担をかんがえると已むえない面もあります。読売新聞社の社説別添

 
 
 
企業年金等

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今後の課題

 

@制度充実と給付抑制のバランス 高所得者の年金受給の在り方・年金制 度における世代内の再分配機能の強化

今回給付のカットがもられたが、引き続き制度充実と給付抑制が課題です。

A支給開始年齢の引き上げ 
世界最高水準の長寿国である日本において、現在進行している支給開始年齢との関係や高齢者雇用の進展の動向等に留意しつつ、中長期的課題として支給開始年齢のあり方について検討する。

B第3号被保険者制度の見直し
第3号被保険者制度に関しては、国民の間に多様な意見があることを踏まえ、不公平感を解消するための方策について、検討

C標準報酬月額上限の見直し
高所得者について、負担能力に応じてより適切な負担を求めて行く観点に立ち、厚生年金の標準報酬月額の上限について、健康保険制度を参考に見直すことを検討する。なお、標準報酬の上限を引き上げると保険料収入が増えるが給付額も増える

E年金体制の抜本的な見直し
年金体制を崩壊させないよう現在の賦課方式から積立方式へ移行など抜本的な制度の見直しも検討する →学習院大学の鈴木教授など積立方式を主張
ただし、移行には相当に時間がかかる。

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  ご参考 年金制度国際比較
 
 

 
   

 

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